あのときの

1995-08-19

[]上河原煙火店にて

上河原文昭 中学3年生 1995-08-19 20:00

いま僕はじいちゃんの家にいる。じいちゃんの家とはつまり「上河原煙火店」だ。

うちの父は次男で、普段は実家仕事には関わらないのだが、今日ばかりは話が別だ。一年のうちの一番の大仕事菊待川花火大会の日なのだから。

仕事を終えて戻ってくる職人さんたちをもてなすため、うちの母も支度に追われている。

僕もしょうがないから一緒にじいちゃんの家に来ているのだ。


支度も一段落したので、なんとなく工房へ行ってみることにした。

火薬の匂いが懐かしい。何年ぶりだろうか、小さい時は時々入れてもらっていたっけ。

工房の中央に見慣れた形のあれが転がっていた。

なんでこんな所に? そう思って手に取ると、表面に文字が書かれていた。

え……? これって、ここにあっちゃまずいんじゃないのか?


母屋に戻り、松村?さんに見せる。松村さんは中堅の職人だが、ここ一週間ほどぎっくり腰で寝込んでいたのだ。毎年現場に出ているのだが、今年はこっちの支度を取り仕切っていた。

文昭くん、こりゃあまずいぞ」

松村さんの顔色が変わる。

「僕が自転車でとどけます!」

今日は車が全部出払っているし、あったとしても松村さんは腰が悪い。花火の混雑なら自転車のほうが早い。そう考えて咄嗟にそう言ってしまった。

「すまん、頼むぞ。」

その声を背中に聞いて、僕は家を飛び出した。全く、僕も結局上河原煙火店人間だってことか。