センチメンタル☆ユニバース このページをアンテナに追加 RSSフィード

2001年9月22日 土曜日

[]食卓を囲む 13:51 食卓を囲む - センチメンタル☆ユニバース を含むブックマーク

河上ふみ 高校2年生 2001-09-22 20:15

週末、土曜の夜。たよりちゃんが帰ってきた。

「毎週帰ってくることにするよ」と、たよりちゃん。

たよりちゃんは隣町のパン屋で働いていて、おみやげにパンを持ってきてくれた。焼き立てだったらもっとおいしいらしい。

たよりちゃんは「みんなでたべましょう」と言って袋を広げたのがおかしくて、あや姉とわたしは笑った。いつものたよりちゃんなら、食べようよ、くらいの感じなのに。

食べましょうなんて言ったことなかったじゃん、たよりちゃん、お嬢様みたいだよと私が笑ったら、たよりちゃんはすこし照れた。仕事場ではそんな口調なの?

わたしがミートパイを手にとって、あや姉が胡桃の練りこんであるパン、最後にたよりちゃんがチョコの入っている白くてふかふかのやつ。

「いくつか惣菜パンを、お父様に残しておきましょう」

「ええ、そうしましょう」

「あ、胡桃が歯に挟まってしまいましたわ」

わたしたちはそんなくだらないことをしゃべって笑った。この夜をずっと記憶に留めておこうと、わたしは思った。

2001年9月13日 木曜日

[]もぐりこむ 13:49 もぐりこむ - センチメンタル☆ユニバース を含むブックマーク

河上ふみ 高校2年生 2001-09-13 00:20

すっきりと目が覚めて、時計を見ると、まだ30分しか経過していなかった。身じろぎもせず、ふたたびたよりちゃんのイメージを喚起しようと思ったけどうまくいかなかったので、トイレへ行って、おしっこをして、手を洗って。

で、今夜が4回目だった。1週間のうちに4回って、ちょっと多い。

あや姉の布団に無言でもぐりこむのが、もう4回目。

最初はチリチリするほど恥ずかしかったけれど、もう慣れました、慣れましたとも。

あや姉の右腕の内側に割って入って、下から3番目くらいの肋骨のあたりに顔をくっつける。

くすぐったいですよと、あや姉は寝ぼけた調子で言って、わたしの体に右腕を乗せた。

ふみちゃん、あの子どうしたの、ほら本屋のバイトで一緒の。あの話、またしてよ」

おとといの夜に、こうやってもぐりこんだときの話題だ。

佐野くんは駅前の書店のバイトで、隣の高校に通っていて、よく勤務の日が重なるんだけど、なぜか、あや姉は、佐野くんのことを聞きたがる。

わたしはだんだん落ち着いてきて、ゆったりした気分で、その日に起こったことを報告する。

佐野くんとレジに立っていて、でもお客さんがいなかったので、ふたりで紙のカバーを折ってストックを作っていて、そして佐野くんはすばやくていねいにカバーを折れる器用さを持っていて、佐野くんはカバーを折るのが上手だね、自分はカバーを折る作業が好きなのだけれどへたくそで悲しい、そういうふうに佐野くんと会話をしたのです、話を聞き続けるあや姉は、ふむふむと相槌を打ちながら、掌を動かして、ぱたぱたとわたしの背中を優しく叩き、そしてわたしはだんだん眠くなっていった。深い淵に落ちる寸前に、あや姉の声が聞こえたのを覚えている。あんたほんと不器用だもんねえ。

その夜は初めて佐野くんが夢に出た。出てきやがった。夢で佐野くんはわたしのことをかわいいって言った。言い放ちやがった。でもそれは、以前たよりちゃんがわたしのことをかわいいって言ったのと同じ口調だったので、たぶんたよりちゃんが佐野くんの姿を借りて現れただけなのかもしれない。そしてわたしは謙遜でなく、自分の顔かたちを好きでなかったので、かわいくないですと言った。言ってやりました。

2001年9月12日 水曜日

[]眠くなる 13:47 眠くなる - センチメンタル☆ユニバース を含むブックマーク

河上ふみ 高校2年生 2001-09-12 23:50

絶対に、どこにも行かないでなんて言わない。

絶対は絶対に存在しないけど絶対に言わない。

家族って言っても、そのうち別れて暮らすのは当たり前なんだ。


ここのところ非常に騒がしいけどわたしは世界の出来事が上の空だった。

たよりちゃんが実は貯金を続けていて、相談なしに部屋を借りて、この家からいなくなって1週間。メールのやりとりはしている。電話でも話した。姿を見ていないだけだ。

たよりちゃんがいつのまにか涙を見せなくなって、もう何か月経つだろう、最後に泣いてたのはいつだっけ、そのぶんわたしに泣き虫の分担が回ってきたように思える。

その証拠に、理由もないのに泣く。たよりちゃんが泣いていたのには、たいてい原因がなかったから(すくなくともわたしには、そう見えた)、悲しい感情と関係なく涙があふれてくるのは、たよりちゃんの涙が伝染してきたのかなと思うわけだ。

悲しくはない。これは誰かに聞いてもらってもいいけど、わたしがたよりちゃんに依存していたわけでも、もちろんないと思うから、どうして自分が泣いているのかわからず、どこかそんな自分を客観的に楽しんでいるようなところさえあるわけで、心配されるようなことではないのだけど。

相変わらず父さんの帰りが遅いので、あや姉とふたりの食卓になるのだが、このときはまだいい。起きているときは、たよりちゃんがいないことも、きっと出かけているのだろうとか、隣の部屋にいるのだとか、そういうふうに無意識のうちに思いこんで抑えておくことができる。

ただ、夜になって、蛍光灯を消して布団に入ってじっとしていると、この静かな町の静かな建売2階建て築23年の木造建築に、静かなたよりちゃんがいないことが、あらためて静かに強く実感されるのだ。

瞼を閉じるとなおさら。

視覚で確認できる明るいときに不在を感じないで、目をつぶっているときに感じるとは、どういうことだろう。

暗い中にもやもやと赤黒い光が現れ、それがうごめいている向こうに焦点を合わせると、瞼の裏は次第に明るさを増して、たよりちゃんの姿が見えてくる。

次々と湧くイメージのたよりちゃんは、やはり居間に座っていたり、音を立てずに食器を洗っていたり。そうか、深夜の静寂が、たよりちゃんのことを想起させるのかな、と私は考えながら眠くなる。

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