虚言拾い

1988年10月15日 土曜日

[]

一条 烏巳 高校2年 1988-10-15 18:42

 その日、一条烏巳は酷く高揚していた。

 原因は本人にも分かりきっている。

 胸元に抱え込んでいる包装済みの本。

 わざわざ、都心まで足を伸ばして、ようやく彼が手に入れたその一冊。ハードカバーの固い感触が手元にあるというだけで、興奮が抑えきれない。

 今この場所が、駅の構内でなければ、間違いなく叫びだしている。

 逆に言えば、会社帰りのサラリーマンの眼を気にする程度には、まだ理性は残っていると言うことだが。

 烏巳は、もどかしげに階段を駆け上がる。

 急ぐのには、理由がある。

 逸る気持ちに急かされているのも、理由の一つだが、それ以上に、烏巳は本を持っている所を級友に見られるのが嫌だった。

 クラスの奴らがこれを見れば、馬鹿にするに決まっている。

 今の時間帯は、ちょうど運動部の帰宅時期と重なる。駅の中をうろうろしていたらいつ鉢合わせてもおかしくない。

 改札を走りぬけ、駐輪場まで辿り抜く。

「おい、一条

 ようやく一息、と言う直前、烏巳は後ろから呼び止められた。