春狩(仮題)

1992-07-07

[]さようならなんてちゃんと言えない

1992-07-07 23:17 和海さやか 小学5年生

また会うときになんかちょっと恥ずかしくなっちゃうから。

また会えないのにお別れのことばっか思い出しちゃうから。

そんでも拙くても、さようならってちゃんと言ったほうがいいのかな。わかんないや。


短冊に「元気で!」って書いて、展望台に置いてきた。

じゃあね。

忘れるよ。

思い出すよ。

もう寝るよ。

明日はプールのテストで、25メートル泳がなくちゃいけないんだ。

でもなんだか今夜は、ざわざわした夜。

静かだけど遠くで何か鳴っているような。

目を閉じれなくて、カーテンをずっと見てた。

網戸を抜けた風で、さらさら揺れていた。

[]俺虎みたい。ドロップキック!殴るぞ。

1992-07-07 23:52 多田国男 小学5年生

「おうおうおーう。何してケツかんでんねんコラ」

夜。暗い。道に。光。ライト。自転車。Beletchのマウンテンバイク。

6年生の橋本たちだ。強い。

「うっさいボケ。なんのようじゃい」

慌てて身構えちゃった僕たちとは違って、イチバはじっと6年生をにらんでる。メンチの切り方がちゃんとしてる。負けないように、僕も、アッちゃんも、ナベもガンをつけた。

「なんやー5年かー別にお前らガキにようはないわ」

マウンテンバイクにまたがって、橋本はにぃと笑っている。イチバににらまれてるのに。後ろの2人の6年生も。怖い。

でも、イチバが言ってた。「笑ってる顔をさらす奴は、すぐ泣く奴と同じくらいかっこわるい」

だからぼくは、目と奥歯にぐっと力をいれる。

「ようがなきゃ、出てけ」

「出てけって!出てけって!」

「展望台はみんなのものですー」

後ろの6年生がはしゃぐ。橋本だけは笑ったまま、目がすっと細くなった。

「気合はいっとんなー。5年坊」

「はっ。お猿さんの橋本クンは、中学行く前に九九覚えなきゃ。て、コバセンに言われとんのやろ。とっとと帰れって」

「ふふーん。ぼくぅ、イキがっとんのー。ボテクリまわしちゃろかーい」

橋本が自転車から降りようとする。

走った。俺虎みたいに。で、ドロップキック!

後ろのノッポに当たって、自転車もろとも倒れた。けど、橋本はチャリ捨てて避けていた。

まずい。立たなくちゃ。やられる。

「石投げとんのは誰じゃボケー!」

橋本はこっちに来なかった。助かった。

「おれじゃ!アラショーの一番、イチバさまじゃ」

「は。一番てワシは負けた覚えないで」

「ほたら今負かしたるわ」

イチバに橋本が殴りかかった。

「コラくそがぁ!」

ようやく立ち上がったでかい方の6年がなんか言う。言う前にかかってこいよ。ヘタレが。

チビのほうをチラッと見る。アッちゃんとナベが一発目をいれていた。

そんでぼくは安心して胸倉をつかむ。ひっぱる。さあ今から。殴るぞ。